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Special Contents07

京都のまちづくり
―学生がまちづくりに参加すること―

京都市まちづくりアドバイザー 亀村佳都さん

Special Interview

今回は、京都市のまちづくりを専門的な立場から支援するまちづくりアドバイザーの亀村佳都氏にインタビューしました。京都でのまちづくり活動や、学生がまちづくりに参加することへの想いなどをお届けします。

◆亀村佳都氏プロフィール
京都市文化市民局地域自治推進室 まちづくりアドバイザー
イギリス、イタリアへの留学を経験後、2004年から2年間、青年海外協力隊として中米ニカラグアで環境教育活動を行う。2007年からは京都市まちづくりアドバイザーとして、伏見区を中心に、地域における市民の主体的なまちづくりの実現に向けた活動の支援を行う。

まちづくりアドバイザーとは

 京都市には計15名のまちづくりアドバイザーがいます。
 14名が各区役所・支所(11区3支所)を担当し、地域・市民の主体的な活動支援や、区役所が実施するまちづくり事業への助言をしています。1名は、地域コミュニティサポートセンターを担当し、主に、地域コミュニティ活性化施策や自治会・町内会の運営支援をしています。
 一般的に、まちづくりや市民活動のテーマは、子育て・福祉・防災・歴史……、と多岐に渡ります。同様に、まちづくりアドバイザーの専門分野も様々で、それぞれの得意分野を活かしながらまちづくり事業に携わっています。各自が異なる専門性を持っているということは、各区の事業や他都市の事例などを検討する上で、多様な視点でアプローチできるという良さにつながり、チームとしての強みにもなっています。
 私の専門は環境教育で、現在伏見区を担当しています。区役所職員とともに、区の基本計画に則った「伏見エコライフプロジェクト」という環境啓発事業を始め、「伏見連続講座」という伏見の歴史などを学ぶ事業、「伏見をさかなにざっくばらん(以下、「ふしざく」といいます。)」という区民の自主的なまちづくり活動を支援する場の運営をしてきました。また、「区民活動支援事業」というまちづくりの助成金事業では、初めて申請する方で、申請書の書き方に戸惑うことがあれば事前に相談に乗り、採択されたら、事業の進め方を含めて継続的に支援します。区民主体のまちづくり活動は夜に集まったり、土日にイベントをしたりするため、まちづくりアドバイザーも区民の多様なライフスタイルに合わせて業務に当たっています。

なぜまちづくりアドバイザーに?

 青年海外協力隊に参加し、2年間ニカラグアで環境教育隊員として派遣されました。ニカラグアでは、派遣された小学校での環境教育のカリキュラムづくりや、「ごみのポイ捨てをしないように」と呼びかけるキャンペーンを全国規模で取り組みました。
 青年海外協力隊での経験を日本の地域社会に還元することも大切だと、派遣前訓練などを通じて認識していたので、帰国後は「地元で何か役に立てればいいな」と思っていました。しばらくして、まちづくりアドバイザーの募集を見つけ、ニカラグアで携わった「国づくり」と京都での「まちづくり」には共通点があると思い、応募しました。
 青年海外協力隊では、「自分が動くのではなく、地域の人たちが継続してできる活動になるように黒子として支援すること」「現地に暮らし、現地の人と同じものを食べ、同じ言葉を話すこと」が大切だとされました。派遣中は、そのように時間をかけて、互いの信頼関係を築きながら活動しました。
 まちづくりアドバイザーとなり、地域住民の主体性を大事にした活動を支援するようになってからも、自分が率先して「あれやりましょう、これやりましょう」という立場ではない点、互いに理解し、対話を重ねながら活動するという点で似ているなと思っています。

まちづくり活動における学生との縁

 道端にゴミがたくさん落ちていたニカラグア。停電も断水も頻繁だったニカラグア。
 それに対して京都は「歴史豊かで、清潔で、美しいまちで、水もすぐ出るし、悩みなどきっとないはず。あるのは夢いっぱいのまちづくりだ!」と楽観していたので、まちづくりアドバイザー1年目に、ゴミで埋め尽くされた大岩山を見た時は「これが、京都議定書が採択された環境のまち、京都なのだろうか」とショックを受けました。

 2007年9月に、深草支所は近くの農家とともに、市道に捨てられているゴミを試しに片付けました。すると半日で、市道の一部が見違えるほど綺麗になり、その場にいたみんなが感動しました。「きっと綺麗にできる。不法投棄をなくそう!」とやる気が高まりました。翌年に「大岩山ワークショップ」事業が始まり、清掃活動には、一般参加者とともに、京都教育大学や龍谷大学の先生の呼びかけで学生が集まりました。他に、「スマスタ京都チーム」という、四条界隈でゴミ拾いをしていた有志の学生や、新聞を見て興味を持った学生の参加もありました。述べ1,000人で100トンのゴミを拾い、目に見えるゴミはほとんどなくなりました。

 活動の中でも、特に、京都教育大学で学ぶある学生との出会いは印象的でした。地元の出身だった彼は、友人の誘いで竹林農家を手伝うようになり、その縁で大岩山の清掃活動、展望所整備に参加するようになりました。何かぴったりハマったのでしょうか。気づけば、陸上競技部を辞めて、大岩山でのゴミ拾いだけでなく、所属する学部や大学の体育会に声をかけながら、荒れた竹林を整備し、LactPren(らくとぷれん)※1という団体を大学で立ち上げました。そのおかげで、彼が卒業しても、私たちは彼の後輩とつながり、活動をともにすることができました。
 その後輩の一人とのエピソードもあります。伏見青少年活動センターで高校生に向けて仕事や人生について語る催しに呼んでもらったことがありました。参加者の中に「春から京都教育大学に進学する」という生徒がいたので、密かに「LactPren(らくとぷれん)に入ってくれたらいいな」と思っていたんです。すると、数ヶ月後、本当にLactPren(らくとぷれん)のメンバーとして再会しました!学部の先輩や先生に勧められたそうです。彼は、在学中に自分で手を動かして何かをする経験をしたいと、大岩山での活動、子ども向けの食育体験教室、伏見エコライフプロジェクトでの取材活動、北区小野郷で休耕田を活用した農作業や林業体験などのまちづくり活動に汗を流しました。卒業して、目標どおり教師になった今も、付き合いは続いています。

※1京都教育大学の学生を中心としたグループ。大岩山に不法に投棄されたゴミの回収、山頂展望所の建設と整備(新たな遊歩道の建設や竹柵設置)、荒廃竹林の整備、ため池の整備などの環境整備活動を進めている。

人生を豊かにするまちづくり活動

 ニカラグアでは、会議は30分、1時間遅れることは珍しくありません。とはいえ、お昼ご飯の時間や終了時間はしっかり守るんです(笑)。現地での活動はゆっくり、のんびり。「焦らない」ことが活動のポイントでした。「大岩山ワークショップ」は時間通りに始まりましたし、終了時間後もキリの良いところまで作業を続けることも度々ありました。40年にわたって捨てられたゴミの山が1年で片付いた時、「一旦解決に向けて動くと、スピードが速い」と感じました。
 一方、ニカラグアでは、思ったことを伝えられるのがいいな、と思いました。「私は“今”こう思っている」と伝えることが大切なので、翌日意見が変わっていても気にする必要はありません。そうすると、アイデアや提案を出しやすいです。遠慮せずに自分の思いを伝え合うため、議論も活発になります。日本では「こういうことを伝えて良いものか」とためらうことや「余計なことは言わないでおこう」とする気持ちが働くことはありませんか。
 もし、何かに遠慮して人と向き合ったり、行動できずにいたら、それは少しもったいないような気がします。色々な人と出会い、経験をすることで人生が充実すると思うので、何もしなければ「上手くいくように頑張ろう!」「失敗して悔しかった」という経験も、自分で作り出す喜びを知る機会も、相対的に減ってしまうのではないかと思います。
 まちづくり活動では、例えば、「ふしざく」で出会ったシニアの方たちが、伏見で実現したい夢や、解決したい課題に対して周囲を巻き込み、行動に移す姿を見て「なんて生き生きした人生なんだろう!」と感動します。「これをやりたい!」という意欲は人生を豊かにすると思いました。60代になってから行動的になるというよりも、20代の頃から小さなことでも自ら考え、動く経験を重ねてきた延長線上に「ふしざく」での活動があったように思います。
 京都は「学生のまち」と言われます。面白そうなこと、興味あることを周りに伝え、今のうちにどんどん、まちに関わってみてください。さらに、異なる世代と共通の目標を持って活動する関係ができたらいいですね。

学生のまちづくり活動に期待すること

 学生がまちづくりの場にいると、居てくれるだけで、一緒にいる人の気持ちが明るく元気になります。私は、居てくれるだけでありがたいと思うのですが、もし、「居るだけでいいなんて……」と気がひけるなら、自分が興味を持っていることを周囲に伝えてみてほしいです。そして、何でも気軽にやってみてください。やりたいことが見つかったら人生の宝物になるかもしれませんし、うまくいかなくても「チャレンジすること」そのものがよい経験になるでしょう。たとえ、参加した活動が面白くなかったとしても、「これは自分には合わないんだ」と気づけます。それも一つの学びですよね。「興味がある」などの積極的な理由ではなく、「頼まれたから」「授業で参加しなくてはいけなかったから」という理由でも、まちづくり活動を始めるきっかけはなんでも良いと思います。

 「人手が足りないからちょっと手伝って」「わからないから教えて」と言われて手助けをしたら、「誰かの役に立つ」という喜びを感じることができます。誰かのためにやってその結果喜んでもらえたら、それは自分のためになる。「情けは人のためならず」ですね!
 もし、皆さんの住んでいる場所に自治会があれば、餅つきや運動会など若い人も楽しめる行事もあります。きっかけをつかむのが難しいかもしれませんが、足を運ぶときっと喜ばれると思うんですよ。子ども達のキャンプへの引率や、地蔵盆の時に大学生に来てもらっている地域もあります。ご近所さんと関わってみて、居心地が良くなったらラッキーですし、心強いだろうなあと思います。
 大学を卒業して京都を離れた後で、「学生から電話があった」とか「学生が遊びに来てくれた」と地域の人が嬉しそうに話すのを聞いて、私も嬉しくなります。まちづくりは暮らしに密接するものだからこそ、時間をかけて、お互いのことを知り、信頼関係を築き……、まちの中で知り合いが増えると、毎日の暮らしや人生が豊かになるのではないでしょうか。
 まちづくりでは、年齢も違えば、考え方も違う人に出会います。意見の異なる人と出会うことは、自分の世界が少し広がります。同時に、多様な意見を受け入れられるようにもなります。自分とは違う価値観や考え方に触れたい、世界を広げたいと思って留学する人は多いと思います。留学も素晴らしい経験になると思いますが、意外と身近な場所にも視野を広げられる機会はあります。大学の4年間、まちに出て思い出をつくりながら、京都での生活を思う存分満喫してください。

<おわり>